2006-09-13

京都情報バブル


ここ数年、京都は沖縄と並んでブームになってますね。
京都本の出版物が増え、あちこちの雑誌で京都特集が組まれます。京都情報バブルですな。

そのおかげで、オレみたいなところにも、その手の誌面作成の仕事が来ることがあります。

京都の観光客数は1999年からずっと上昇し続けていて、昨年度は4727万人だったそうです。まあ、そのなかには、オレみたいに、隣県の大阪から足繁く通ってる人も含まれてるんでしょうが。
この上昇傾向は、5年前のNY同時多発テロが影響していると言われています。この年、海外渡航者数は激減し、雑誌は海外旅行情報を自粛しましたな。
でも、雑誌に、旅行情報は欠かせないじゃないですか。
そこで、脚光を浴びたのが、京都。
京都というところは、海外に代わる、国内の外国って位置付けですね。

東京発の全国雑誌が京都特集を組むとして、取材情報は、多くの場合、京都在住のライターが集め、それを東京の編集担当者が取捨選択します。
この段階で、東京の担当者の視点と京都地元民の感覚とのあいだに、ギャップが生じます。
なんでって、東京の担当者が望むのは、東京から見た、京都の外国度の高さだから。

たとえば、
誌面で紹介する店を選ぶ際、古い店構えや暖簾などの写真映えや、老舗であるかどうかといった記号性が、サービスや味よりも重視されるからです。内容がよくても、エキゾチズムをくすぐる要素がないと、取材リストには残らないということです。
たとえば、相方がバイトしているcaffe Luccaというカフェは、どの街に持っていっても恥ずかしくないレベルの高いカフェだと思うけれども、でも、京都と聞いて思い浮かべるイメージからはかけ離れているので、取材対象からは除外されるわけです。たとえば、caffe Luccaが東京の荻窪あたりにあって、どこかの雑誌が荻窪特集でもやれば、載るんでしょうな。

だから、大量に出まわっている京都情報の中身は、海外リゾート地ガイドのそれとおなじで、いかにもそれらしいお店が並んでます。いくらかマニアックになったところで、その枠組み自体は変わらない。

まあ、ガイドだから当然なのだけれども、外国的要素だけで構成された誌面は、やっぱ、ヴァーチャルな世界ですね。地元民やオレみたいな半地元民からすると、違和感ありまくりです。京都にかぎらず、観光地に住む人は皆感じていることだろうけれども。

世襲制が長く続く暖簾、着物姿、むかしからの町屋、伝統工芸、季節感とともにある和菓子や京料理…、これらはすべて、なんでもあるはずの東京にはないものばかりです。
自分にないものをありがたがり、逆に、それ以外のものには価値観を見出さないメディアの態度は、意地悪な言いかたをするなら、アジアや辺境地に自ら反対の価値を押しつけ、ノスタルジーに浸る類いの旅行者の植民地的なセンスに通じています。

とはいえ、京都にやってくる旅行者の、京都で癒されたい、日本を感じたいという欲求は、切実に聞こえます。
mixiにも京都旅行をテーマにしたコミュニティはたくさんあるのだけれども、どれもビックリするくらい充実しているし、そこに顔を出す人たちのなかには、何度も新幹線に乗って京都に通い詰めるマニアックな京都ファンがたくさんいます。

たぶんね、ヴァーチャルな京都のイメージとその魅惑は、欠乏感の裏返しなんだと思うのですよ。
だから、こうした京都ファンのあいだで共有される京都のイメージは、修正されるどころか、ますます硬直化しているように感じます。


というようなことを考えるようになったのは、
mixiで、旅日記を連載している人がたくさんいるとわかってからですわ。
現在進行形の日記じゃなくて、いつかの長旅を、時系列で毎日アップしていくようなスタイル。
で、
そのほとんどが、雑誌やなにかで調べたものを実際に観にいって感動してるのやら、牧歌的な風景や人の人情に触れて癒された感動したって話ばっかりで。
感情がそうなのか、感情の発露の仕方がそうなのか知らないけれども、はっきりいって、紋切り型なのですよ。
大草原の雄大さに惹かれてモンゴルに行く人はたくさんいるんだろうけれども、なんかね、それを再確認して、感動した、って、それだけ。
オレなんて、大使館員の機嫌損ねてビザを発給してもらえなかったから、モスクワ行きのシベリア鉄道に乗って、モンゴル国内で電車から飛び降りて、しばらく密入国状態で遊んでたら、地元警察に見つかって、国外強制退去させられましたよ。だから、オレ、モンゴルは嫌いなんです。

そういう人、オレ以外にもいてると思いますよ。
でも、モンゴルに行ってモンゴルを嫌いになった人を、オレは見たことがありません。

石庭で有名な竜安寺は、今、工事中です。石塀があってこその石庭なのに、今、その石塀には醜いブルーシートが被せられています。でも、拝観はしてるし、拝観料も通常通り。
そのことをきちっとフォローしている記事は、いわゆる京都特集もののなかには、ないですね。

ブルーシートは、京都エキゾチズムには似合わないですからね(笑)
ブルーシートは見えないことにして、せっかくの貴重な石庭だけを見て感動しろ、と?(笑)

ちなみにオレは、竜安寺の石庭にブルーシートがあろうとなかろうと、あんまり好きじゃありません。