2007-11-22

99分





この店のことはずいぶんまえに日記で書いたのですが、今日、久しぶりに行ったので、もっかい。

京都のど真ん中に、とんでもないカフェ、基、喫茶店がありましてですね。
今日、3人で京都に仕事に出かけた折り、その店の話をしていたら、行ってみたい!ってことになって、久しぶりに立ち寄ったのでした。
オレ自身、2年ぶりくらいかも知れません。
なんせね、行くなら行くで、ちょっとした覚悟がいるのですよ。

お店の名前は、『クンパルシータ』。
タンゴの名曲から店名をいただいた、タンゴ喫茶(笑)

あのね、日本中どこを探したところで、こんな店はないですから。

風俗街のトバグチにあるんですが、もっとも店の創業が終戦直後の昭和21年なので、風俗店があとから乗り込んできました。それはいいんですね。問題は、風俗店でもないのに、風俗店以上に妖しい雰囲気を醸し出していることのほうで。
まず、地下でもないのに、カフェのくせに、窓がいっこもありません。
港町の場末のバーのような扉を押してなかに入ると、ベルベットの赤で統一されたイスが並んでいて、店内はタングステンでも使ってるのか?と言いたくなるほど、オレンジに輝く照度の低い照明で。で、テーブルとテーブルを仕切る柵は、先が尖っていて、妖しく黒光りしていて、まあ、ラブホのSMルームのような装いですよ(笑)

むかーしの喫茶店って、イスとテーブルがかなり低かったりするんですが、ここも例に漏れずですな、低いのですよ。脚をテーブルの下に入れるのがイヤになるくらい低いし、その姿勢だと窮屈でしんどくてですな、全然リラックス出来ません(笑) 膝頭が出るくらいの丈のスカートをはいた婦女子さんだと、間違いなくパンツが見えますな。きっと、模様までくっきりと見えるはずですから(笑)

まあ、そこまでいいんですよ。
や、それだけでもたいがいですが、そんなことは問題じゃない!っていえるほどに、おそろしいことが待ってましてね。

コーヒーでも紅茶でもジュースでも、注文したものが出てくるのがね、とんでもなく遅いの(笑)
あのね、大げさでもなんでもなくて、ホットコーヒーを注文してから出てくるまで、1時間かかりますから!
だからね、ちょっとお茶でも、ってかんじでは入れない喫茶店なのですよ〜。

なので、今回も、行きたい!ってはしゃぐのはいいけれども、2時間は覚悟しないとダメだからね!そのあとの仕事にしわ寄せが来るからね!って、このクソ忙しいさなかに念押ししてですね、行ったわけです。

店を仕切るのは、ママひとり。
まだ生きてましたか〜(笑)

佐藤美恵さんという方で、戦後直後にお母さんがはじめた店の、美恵さんはその当時からの看板娘で、当時、『夫婦善哉』で有名な織田作之助が木屋町を舞台にした小説を京都新聞に連載していたのだけれども、その作品のなかで、木屋町一のベッピンさんと評された女性です。
でも、んなもん、それも50年以上もむかしのこと。もはや何歳なのかもわからないし、恐ろしくて聞く勇気すらないです(笑) というか、いつ行っても、きっとこれが最後の見納めなのだろうな、と(笑)

当然なのかも知れないですが、かなりの妙齢であるはずの美恵さんの給仕は、恐ろしく遅いです。
まず、動きが遅い。ゼンマイで動いているのではないかと思うほどです(笑)

厨房とホールを行き来するためにカウンターの下の低い通路を通るのだけれども、1日にそこを何往復もし、それを50年も繰り返しているからか、背中はほぼ直角に折れ曲がっていてですね、美恵さんのご尊顔を拝することは、稀です。
注文をとりにくるのも遅いけれども、出来上がるのは、もっと遅くてですね。とにかく、ホットコーヒーを注文して、なにをどうすればあれほどの時間がかかるのかわかんないですけれども、ありつけるまでに平均で1時間はかかるのですよ〜。
水だって、サッと出てきません。思い出したように30分くらいしてから出てくるときもあれば、コーヒーと一緒に出てくるときもあり…(笑)
あ、タンゴ喫茶なので店内にはタンゴが流れているのですが、これがレコードかカセットでして、途中、カウンターを出て、レコードやカセットをリセットしたりするなどの、中断もあります。

が、しーかし、イライラしてはいけません。文句を言ってもいけません。
そういう店なのですよ。この店を訪れるすべての人が、そのことを了承してやってきますから。
だから、ちょいと時間が空いたからお茶でも、という感覚で来てはいけない店なのです。あくまで、優雅にタンゴを聴いて楽しむ、それがメインの店なのですよ〜。

今回、注文してからどれくらいかかるのか、計ってみました(笑)
先客は、オッサンがひとり。
んで、こちらの3人は、全員がホットコーヒー。
席について、2、3分で恵美さんが厨房から出てきて、注文を聞いてくれました。このレスポンスは過去最速で、これは期待が持てるかも!って思ったもんですよ。

恵美さん、スリットの入った黒のロングスカートに白のブラウスのうえに黒のカーディガンを羽織ったシックな装いです。この年代の京都人だと和装が多いのですが、恵美さんは戦後間もなくからのタンゴ喫茶の看板娘ですからね、ハイカラさんなのですよ☆ あ、足下は毛糸の靴下にサンダルでしたが(笑)
黒々としたロングヘアーはキレイにシニヨンにまとめられているのですが、なんせ腰が直角(笑) 顔が真下を向いてますので、そのご尊顔を拝することは叶いません。叶いませんが、真っ赤に引いた紅がチラチラ見えて、艶かしいです☆

さて、注文してから28分が経って、恵美さんが厨房から出てきて、トレイにコーヒーをひとつ載せて、やってきました。
おお!早いっ!と思ったのもつかの間、そのコーヒーは先客のオッサンのものでして、オレたちの歓びはぬか喜びに(笑)

もちろん、恵美さんのコーヒーは1杯だてですから、いっぺんにつくるなんてことはないのですよ〜。いや、つくってほしいもんですけれども。

さて、お水も出てきません。
手持ち無沙汰なので、おもむろに新聞でも。
このお店、だいたい昼の3時にオープンするのですが、なぜか朝刊各種が取り揃っていまして、ちなみに夕刊はありません。。。。

あ、恵美さんが厨房から出てきました。
36分経過。
レコード盤を引っくり返して、また厨房に戻っていきました。

それにしても、なーんでこんなに時間がかかるんでしょうか?(笑)
コーヒー豆を採集するところからやってるとしか思えません。。。。

えーっと、77分経過。
まだ、なんの音沙汰もありません。

90分経過。
恵美さん登場。
トレイに、水が入ったグラスが3つ、載せてます。。。
んで、やっとお水が到着してですね、もうすぐコーヒーが出来ますからね♪と(笑)

99分経過。
おおっ! 恵美さんがトレイにコーヒーを3つ載せて登場☆
えっ? もしかして3杯いっぺんにつくったの? それでもこの時間?

いやいや、コーヒーを注文してから99分ですよ〜。
先客がいたとえはいえ、これはあまりにも時間が…、というレベルの話でもないですが(笑)

澄んだ切れ味の美味しいコーヒーなんですけどね、でも、さすがに疲れました〜。
結局のところ、そういう店なのだと思わなければ、とても行けない店なのですね。
だから、覚悟がいるのですよ(笑)
今日も、昼の3時に入って、店を出たときには外は暗くなってましたから。。。

そもそも、午後3時開店という不思議な開店時間にもかかわらず、店が3時ちょうどに開くことすら毎日ではなく、4時、5時、6時に開店がずれ込むことすら珍しくはないわけで、それを考えると、今日は3時に行って店が開いていたのだから、これはラッキー!だと思うしかないのです。。。

そしていつも、店を出るとき、次来るときまで恵美さんは生きてるのかなあ、と(笑)
なんせ、ゼンマイで動いてますからね☆

はあ、疲れました(笑)


ピアソラのリベルタンゴを渡辺香津美がやってます☆

本日の1枚:
渡辺香津美 /『Libertango』


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